東京大空襲のあった日~その長編小説
2016 / 03 / 10 ( Thu ) 05:54:52
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 今朝の東京は曇りです。
 
 ホットコーヒー、飲んでます。

 おはようございます、kakisakasanです。


 本日3月10日は東京大空襲のあった日です。

 正確に言えば、3月9日から10日未明にかけての出来事です。

 アメリカと日本が戦争をしていた…

 教科書で学んでも、今の若い人達には実感が湧かないでしょうね。

 もちろん、kakisakasanも戦争の経験はありませんが、両親や祖父母は経験をしていますので、昔話として時々聞いていました。

 空襲に遭って、逃げ回る話も聞いたことがあります。

 B29の絨毯爆撃によって潰滅させられた東京は、それこそ、灰と瓦礫になりました。

 わたしは東京大空襲にスポットを当てて、戦争に正義はないと言う考えのもとに『Kill The Japanese』と言う小説を書きました。

 以下にあらすじを記載しておきますので、是非読んで頂けたらと思います。


 小説の構成

 第1章 東京の思い出
 第2章 パール・ハーバー
 第3章 東京大虐殺
 第4章 生き残りし者の義務

 あらすじ

 時は西暦1935年。
 アメリカはニューヨークから、一人の白人青年が東京の下町である三筋に降り立った。
 彼の名前はフランクリン・スチュワート。
 幼少の頃に母親と死別。その後は、日本人の乳母である加藤ハツに育てられ、彼女を実の母親のように慕うようになった。
 しかし、ハツもまたガンで亡くなった。
 三筋を訪れたのは、ハツが育ったと言われる東京の下町を見たかったからである。
 三筋には、父の仕事仲間であるマケインの友人、村上源次郎・君子夫婦が住んでいた。
 彼は村上夫婦に東京の下町を案内してもらった。
 ところが、村上夫婦と接しているうち、彼は次第次第にこの夫婦に理想の父母を見るようになり、ついには、お父さん・お母さんと呼ぶまでになった。
 しかし、温かい気持ちになれたのも束の間、時代はいつしか戦争に突入。
 フランクが再び東京の地に足を踏み入れる事が出来たのは、焼夷弾で瓦礫の地となった終戦直後の事であった。
 これは、日本人に愛情を注いでもらった一人のアメリカ人が、戦争によって得た経験から『戦争に正義はない』と考えるに至った、数奇な運命の物語です。



 冒頭文

 第一章 東京の思い出

             一

 鳥越神社の脇にある通りを上って行くと、三筋と言う町に出る。村上源次郎が住む三軒長屋は、その通りを更に上った左手にあった。
 源次郎は妻の君子と二人暮らしであった。子供はいない。植木職人を生業とし、その腕の良さと快活な人柄に惚れて、源次郎に仕事を依頼する人は少なくなかった。その噂を聞き付けて、中には外国人もいた程である。
その源次郎宅が今朝は何やら騒々しい。玄関前には、近所の者が我先にと詰め掛けて、あちらこちらで話の花を咲かせている。
 空は抜けるような秋晴れが広がり、時折吹く風が実に爽やかだ。
 仕事でたまたま三筋を訪れていた者が、一体何の騒ぎだろうかと、通りにまではみ出ている人垣の向こうを背伸びして見遣ると、紋付き袴を着た源次郎が難しい顔をしてたばこをふかしていた。傍で見ても、気を落ち着かせるためにふかしているのがよく分かる。
「なるほど。娘さんがいよいよ嫁ぐって訳だ」
 独り合点して、そう呟くと、斜向かいに住んでいる中山さん家のおかみさんが、
「あんた何勘違いしてんだよ。源さんとこに娘なんていないよ」
「えっ……じゃあ、この人だかりは何なんだい?」
「外人さんが来るんだよ」
「外人?」
「そうなのよ。あたしも詳しい事は知らないんだけど、何でもアメリカの金持ちらしいよ」
「へえ、こんな下町にアメリカ人がねえ……一体あの人はどういう御仁なんだい」
「ただの植木職人だよ」
「ただのって、相手はアメリカの金持ちなんだろ」
「だから、みんなびっくりしてこうやって集まってるんじゃないか」
 と、その時である。
「来たぞ、来たぞ」
 と、子供の甲高い声が、やじ馬を煽るように、飛び込んで来た。
 源次郎の家の前に詰め掛けていた者達が、一斉に踊り出た。通りの人だかりはまるで風船が膨らむように大きくなった。
 大声で叫びながら、こちらに走って来るのは、憲太であった。憲太は今し方話していたおかみさんの息子である。更に見ると、憲太の後ろから一台の黒い乗用車が、濛々と砂煙を上げながら、勢いよく走って来るではないか。車はあっと言う間に憲太を追い越し、人だかりの手前で止まった。
 さっきまでの喧噪が嘘のようにやんだ。皆の視線が自動車に釘付けとなった。
 後部座席の扉が開いた。
 皆、固唾を飲んでじっと見ている。そして、全員が釣られるように上を向いた。
「おおっ」
 感嘆の声が一斉に沸き起こった。
 そこに立ったのは、背広を身に纏った見事なまでの青年紳士であった。
 背丈は軽く六尺はあろう。髪の毛はそれは綺麗な金色で、鼻筋の通った面立ちは日本人の目にもいい男だと映る容貌であった。憲太のかあちゃんなどは思わずうっとりである。
「はじめまして、皆さん。わたくし、フランクリン・スチュワートと申します。村上源次郎さんのお宅はこちらでよろしいのでしょうか」
 フランクが日本語を話せる事は、源次郎からの又聞きで既に知っていた。ただ、話せるとは言っても、そこは所詮外人である。おそらく片言の日本語であろう。せめてアメリカに帰る頃までには、ましな日本語が話せればと、近所の者達は噂をしていたものだ。ある意味、優越感もあったであろう。
 ところが、フランクの日本語は余りにも流暢であり、しかも敬語を用いた大変丁寧なものであった。はっきり言って、下町の者よりも上品である。美男子の上に、流暢な日本語となれば、その驚きは度を超えよう。口をぽかんと開けたまま、ただフランクを見るのみとなっても、それは至極当然であった。
 そこへ、憲太が戻って来た。
「どうだ」
 息を切らしながら、憲太が尋ねると、
「あの外人さん、すげえ。日本人みたいだ」
 そう言ったのは、優であった。優は憲太と同じ歳で、今年十一歳になる。住まいは源次郎と同じ三軒長屋、つまり源次郎とは隣同士である。優は四歳になる妹の妙をそばに寄せて、通りを挟んだ斜向かいの長屋の陰からフランクの動向を窺っていた。
「馬鹿、感心してる場合じゃないだろ」
「でも、ほんとに上手なんだもの」
 優に同感したのは、憲太の妹のミツ子である。ミツ子の後ろでは、優の弟である治雄が興味津々にフランクを覗き見していた。
 人だかりはしんと静まり返っている。誰も動こうとはしない。
 風が吹いた。フランクの髪の毛が靡いた。
 フランクはこの何とも言えない空白の間に困惑した。こういう場合、どう対処すればいいのだろうか。そもそも、彼らはなぜ驚いているのだろうか。
 フランクは日本語を学んで、もう十六年になる。その間、日本の文化や慣習も当然のことながら学んで来た。今の挨拶に誤りがあるとは思えない。しかし、日本で生活をして来た訳ではない。飽くまで知識として持っているだけである。ひょっとして、自分の与り知らない所で失礼な事をしてしまったのではないのだろうか。フランクはちょっと首を捻り、考える仕草を見せた、まさにその時、
「よし、今だ」
 これぞ絶好の機会と思った優は、そう言うなり、妙の背中をぽんと叩いた。
 妙が歩き出した。
 フランクが顔を上げた。悩んでも仕方がないと思ったのだろうか。しかし、納得がいかないのか、再び考え始めた。
 憲太と優は、そんなフランクをよそに、妙に向かって、身振りで行け行けと言っている。
 そんな妙に逸速く気づいたのが、例の通りすがりの男であった。あっ、と奇声を上げるや、フランクばかりに気を取られていた人だかりも、つい釣られてそっちを見た。
 驚いたのは言うまでもない。人だかりは、突然の妙の登場に、またも唖然呆然である。
 妙がフランクの足元まで来た。
 考え事をしている時に不意を衝かれるのは、ちょっとした事でも驚くものだ。フランクは、ツンツンとズボンを引っ張られる感触に、声にならない奇声を上げるや、直ぐさま足元を見た。
 すると、そこには、黒々とした髪をおかっぱにした女の子が、はにかむような笑顔で、フランクを見上げているではないか。
 フランクは驚きの正体が小さな女の子であったのに“なあんだ”とひとまず胸を撫で下ろすと、妙に笑顔を向けて、
「どうしたの、お嬢ちゃん」
 と優しく問いかけた。
 すると、妙は開口一番、
「ウエルカム トゥ ジャパン」
 と大きく、はっきりとした声で言った。
 人だかりの山は目を丸くした。
 通りすがりの男も驚きの連続に呆れ返り、
「おいおい、あの女の子、英語を話してるんじゃねえか。すげえなあ」
 と言うと、憲太のかあちゃんまでもが、
「妙ちゃん、たいしたもんだねえ」
 と言ったきり、口をあんぐりである。
 だが、フランクは周囲の驚きなど気にも留めず、しゃがみ込むと、妙の顔を覗き込んだ。
「歓迎してくれてありがとう。ところで、お嬢ちゃんのお名前は」
「オカノタエ」
「そう、タエちゃんて言うんだあ」
「うん」
「タエちゃんにちょっと聞きたい事があるんだけど、この辺に村上源次郎と言う人は住んでるかなあ?」
 妙は長屋を指さした。
それを見て、憲太と優は、
「その調子、その調子」
 と熱を入れて言った。
「じゃあ、一緒に行こうか」
 フランクは妙に笑顔を見せて立ち上がると、小さな手を取った。
 人だかりの山がすぱっと半分に分かれた。まるで歌舞伎の花道のような、人垣の道が現れた。
「ありがとうございます」
 フランクは道を開けてくれた人に礼を述べると、妙に案内されるままに源次郎宅へと歩き始めた。
 玄関先で今か今かと見張っていた妙の父ちゃんは、フランクの顔を見るや、
「源さん、来たぜ」
 と威勢よく声を掛けた。
 ところが、妙も一緒なのに気がつくや、今度は余りの予想外な事に、
「あれっ、妙」
 と思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
 玄関口では、源次郎と君子が並んで、既に正座して待っている。俯き加減ではあるが、源次郎の表情の堅さは誰の目にも明らかだ。
 フランクが来た。
「村上源次郎さんのお宅はこちらでよろしいのでしょうか」
源次郎の緊張は最高潮に達した。ちらっと見上げた。正面にフランクの顔が見えた。フランクと視線がぴたりと合った。源次郎はそれこそ心臓が破れんばかりにドキッとした。
「ははっ」
 源次郎と君子が頭を下げた。そして、そのままの姿勢で、
「うえっ、うえっ……うえっ」
 何度もどもる源次郎に、君子が見かねて、
「ウエルカム トゥ ジャパンでしょ」
「分かってるよ……うえっ……」
 と、その時である。
「ウエルカム トゥ ジャパン」
「そう、ウエルカム トゥ……えっ」
 源次郎は思わず顔を上げた。
「ウエルカム トゥ ジャパン」
 再度の声に、今度は一転、下を見た。すると、そこには妙がフランクと手を繋いで、ひょっこり立っているではないか。
「……妙坊」
 源次郎は驚いた。
 片や、君子は大きなため息をついた。
 フランクはわざわざアメリカから来て下さる賓客である。いくら、フランクが日本語を話せるとは言っても、まずは英語で歓待するのが礼儀であろう。そこで源次郎はフランクを紹介したマケインに歓待の言葉を教わった。それが『ウェルカム トゥ ジャパン』であった。
 それからと言うもの、源次郎は毎晩練習を繰り返した。君子はたった一言にそこまで練習する必要はないと言ったが、こんな汚い家に来て下さる、しかもアメリカからお見えになる方に粗相でもあったらどうすると源次郎は言って聞かなかった。源次郎にとっては、それこそ日本とアメリカの外交を一手に引き受けたような気持ちであったのだろう。しかし、それをあっさりと妙に持って行かれたのだから、源次郎も立つ瀬がない。いや、小さな外交官に脱帽である。
「なあ、妙坊、ひょっとして、おじちゃんの声聞こえてたかい?」
「うん」
「やられたなあ」
「まったく馬鹿だねえ、この人は」
「誰が馬鹿なんだよ」
「あんな大きな声で練習してたら、聞かれるのは当たり前だって言ってんだよ」
「大きな声のどこが悪いってんだ」
「悪いって言ってんじゃないの。馬鹿だって言ってるの」
「かあちゃんだって、留袖どうしようかって、竹町の古着屋を漁ってたじゃねえか」
「何でそんな事言われなきゃいけないの」
「馬鹿だって言いてえんだよ」
「源さん、いい加減にしろよ。待ってるぜ」
 妙の父ちゃんが割って入った。
 源次郎と君子が同時にフランクを見た。
 フランクが愛想笑いをした。
 二人は慌てて頭を下げた。
「申し訳ありません。お恥ずかしいところを見せてしまって。では、改めまして、御挨拶を。あっしは村上源次郎と申します。こっちにいますのが、かあちゃんの、あっ、いやいや家内の君子と申します」
「はじめまして、源次郎の家内で君子と申します」
「はじめまして。わたくし、フランクリン・スチュワートと申します。皆はわたくしの事をフランクと呼びます。皆様もわたくしの事を気軽にフランクと呼んで下さい。村上さんの事はマケインさんから色々と伺いました。この度は、わたくしの我がままを受け入れて下さって、本当に感謝しております。これから一月の間、何かと御迷惑をかけるとは思いますが、どうぞよろしくお願い致します」
「そんな御丁寧な。このようなむさ苦しい所においで下さって、感謝するのはあっしらの方です。まっまっ、堅い挨拶はこれくらいにしまして、さあ、どうぞ。狭くて汚い所ですが、酒はありますから。マケインさんの話だと、フランクさんはいける口なんですよね」
「まだ日が高いって言うのに」
「めでてえ日に酒はつきものだろうが」
「あのう……」
「へえ、何でしょ」
「わたくし、今日は御挨拶と言うことで参ったものですから」
「そんな遠慮なさらなくてもいいんですよ」
「そうそう、かあちゃんの言う通りですよ」
「いえ、今日は他の所にも御挨拶に伺わなければなりませんので。また、明朝お伺いしたいと思っております」
「そうですかあ……まあ、無理に引き留めてもねえ。分かりました。じゃあ、明日と言うことで、お待ちしております」
 にこやかに源次郎が言うと、フランクも笑顔で応えた。だが、それは源次郎に対する愛想笑いではなかった。夫婦ゲンカから取り敢えず解放された、ほっとした笑みだった。
「では、失礼します。タエちゃんも」
「ウェルカム トゥ ジャパン」
 これには、一同大笑いであった。
 だが、人垣を割って見ていた憲太達だけは別であった。にんまりとほくそ笑むのは、明らかに子供の悪知恵が覗いて見えた。



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